こんにちは。リナークのニシザワです。
今回の記事では、私たちが過去に関わったプロジェクトにおける経験と学びをお伝えいたします。具体的には基幹系システムのリプレース開発という大きなプロジェクトが失敗に終わった経験がありました。その失敗から学んだことは小さな成功を積み重ね、大きな成功に繋げていくことです。そして、その過程でチーム全体がどのように成長し、結束力を高めていったのかという体験談です。
私たちが日々の業務を通じて経験することは、決して簡単なものばかりではありません。しかし、それらの経験から得られる学びや気づきは、次の一歩を踏み出すための大きな力となると私たちは確信しています。
はじめに
ユーザーさんが普段触れるアプリやシステム、それらは一見冷静でロジカルなコードによって動いているように思えます。しかし、その背後には人々の情熱、創造性、そしてときには失敗から学ぶ経験があります。今日は、そんな現場で働く私たちのリアルな体験談をお伝えいたします。
人間関係の維持やコミュニケーションの取り組みが、最終的にどのように影響を及ぼすのか。技術だけではない、人間味あふれるシステム構築の体験談をお伝えします。みなさんがこれからシステム開発に関わるような立場であれば、もしくはそのような立場の人なら経験されているかもしれません。
失敗と成功。そして、その中で育まれた人間関係の体験談を通して、システム構築の真髄を探求します。
システム構築と内製化の意義
システム構築と内製化は、組織の成長と効率性に深く関わる2つの要素です。
システム構築は業務を効率化し、情報を一元管理し、データベースとしての利用価値を向上させるための重要な手段です。専門的な知識と経験を活用して、自社のニーズに合ったシステムを開発・導入することで日々の業務の改善、品質向上、コスト削減など、多岐にわたるメリットを享受することができます。
一方で内製化とは自社で資源や能力を持ち、自社のニーズに対応するソリューションを自ら作り出すことです。内製化により、自社のビジネスモデルや業務フローに最適化したシステムを構築し、自社の知識を最大限に活用することが可能になります。
しかし、システム構築と内製化は決して簡単なものではありません。技術的な課題、人材育成、コミュニケーションの壁、リソース不足などの多くの問題に直面します。それでもなお、これらの困難を乗り越えたときに得られる利益と満足感は計り知れません。
これらの意義をシステム構築と内製化が企業にとってなぜ重要なのか、その深層を探っていきます。
失敗編:ステークホルダーの理解不足とコストインパクトによる頓挫
当時、内製化で構築した物流管理システムの成功から、三十数年前から稼働していた基幹系システムのリプレース開発プロジェクトを検討していました。
その目的はレガシーシステムの脱却でした。これは既存システムはデータの広域利用に制約があり、一部の業務プロセスにおける転記や二重入力など、効率化できるはずの問題を解決できていませんでした。そこで私たちは一気通貫の業務プロセスとデータの一元管理が可能な基幹系システムの環境を整備することを目指しました。
このプロジェクトを進めるために基幹系システムを開発することを想定したRFP(提案依頼書)を作成しました。完全アウトソーシングしたときの予算、スケジュール、および体制などの提案をベンダーから集め、かつ内製化で構築することを想定したITロードマップを自ら作成しました。
ITロードマップをベースにステークホルダーに説明し、プロジェクトの立ち上げが承認されました。しかし、経営者を集めてプロジェクトのキックオフをする段階で、このプロジェクトは頓挫しました。
それは以下の点で理解を得ることができなかったことが、このプロジェクトが頓挫した要因です。
経営者の交代によるプロジェクト理解
このプロジェクトは旧経営者および経営体制の承認によって立ち上げることができたプロジェクトでした。しかし、キックオフをするタイミングで経営者が交代し、経営体制の変更によってプロジェクトに疑問符がつきました。新体制のステークホルダーに対しても以前より継続的な説明を続けていましたが、立場が変わると考え方も変化し、一貫した考え方を得ることが難しくなっていました。
情報投資の優先順位
既存のシステムで業務が遂行している状況に対して、そのシステムをリプレースする必要性の欠如がありました。例えば必要性に迫られて導入するようなアプローチであれば、業務が停止することで売上を生むことができなくなることに直結します。しかし、この提案は将来の企業価値やあるべき姿を見通したときに必要だと捉え、またそのタイミングの検討では環境変化についていくことが困難になり、遅い判断となる可能性があることを考慮した提案でした。
よって、必要に迫られていない状況、かつ将来の企業価値、将来像をステークホルダーと共有する機会が少ないことが、情報投資の優先順位を下げる結果となりました。
コストインパクト
基幹系システムをリプレース開発するための費用としては、完全アウトソーシングで、5千万円〜2億円弱のレンジで見積が算出されていました。その中でも内製化で算出した金額は2,000万円であり、アウトソーシングと比較すれば少ない金額でした。仮に新システム(2,000万円)を5年で償却することを考えれば、年間400万円、半期200万円となり、売上高に対するIT予算を考慮するば現実的な金額ではありました。しかし、経営者目線であれば「イニシャルコスト:2,000万円」と算出されること。これが如何に他社との比較であってもインパクトが大きかったと記憶しています。
参考に米ガートナーによると、2020年時点で日本企業の売上高に対するIT予算の割合は推定1.0%と言われています。例えば、売上高30億円の企業であれば3,000万円/年です。しかし、この予算にはPCやITツール、既存システムの運用費なども含まれているため、新規開発のシステムに割ける費用は限られます。
以上の要因により、新経営体制に基幹系システムのリプレース開発プロジェクトの理解を得られず、結果的にプロジェクトは頓挫しました。
しかし、この経験から学んだ重要な教訓があります。それは経営層に対して情報投資の必要性とメリットを享受できる機会を提供することの重要性です。これを叶えるために最優先で取り組むべきなのが、経営層がシステム導入のメリットを享受できるミニプロジェクトであり、その必要性を強く感じました。
成功編:経営層が導入メリットを享受できる環境整備
失敗編での教訓からまずは経営層が経営判断の材料となるリアルタイムで必要な数字を提供することでができる計数管理システムのミニプロジェクトに取り組みました。このシステムの目的は営業部門の売上数字や生産部門の生産状況をグラフで可視化し、ミクロからマクロまでの数字を追える環境を作り出すことでした。そして、システムを利用する機会が少ない経営層に対して、システム利用頻度を上げることができる機能とその機能から新しいシステムの可能性を垣間見ることができるメリットを享受できる機会を提供したいと考えました。
大きなプロジェクトは頓挫していましたが将来の再開を見越し、そのときにスタートダッシュができるために準備を続けました。それは、このミニプロジェクトをより分かりやすく伝えるために「動くモノ(プロトタイプ)」を作り出すことでした。そのため、このミニプロジェクトの計画では既存のシステム環境とExcelで整理していたデータをFileMakerに移行し、リアルタイムでアクセスすることができる環境を1ヶ月で構築しました。
その結果、ITロードマップの方向性を見直す機会が生まれたときには既に動くモノ(プロトタイプ)があったために、そのプロトタイプを見ることで経営者が具体的なイメージを持つことができました。そして、そのイメージを経営層全体で共有されたことで、システムの優位性、必要性から大きなプロジェクトへの道筋をつけることができました。
基幹系システムの大きなプロジェクトの頓挫から2年経過していましたが、その時間を利用して基幹システムの周辺にあるサブシステムやサテライトシステムを整備していたことで、大きなプロジェクトである生産部門と営業部門の垣根を越えた基幹系システムのリプレース、かつ統一プラットフォームの導入にたどり着くことができました。
私たちがこの経験から学んだことは、自分が持っているイメージを「見えるモノ」にすることの重要性です。プレゼンテーションや資料だけではなく、具体的なプロトタイプを見せることでステークホルダーがイメージを膨らませ、具現化しやすい環境を提供しました。そして、このプロトタイプ作りを通じてフィードバックを素早く得られ、そのサイクルを速く回すことで実績を積み、大きなプロジェクトを遂行できる環境を構築できた要因であると感じました。
内製化とチームビルディング
内製化を進めていくと開発したシステムを利用したユーザーからの声が直接届きます。そして、内製化したシステムを開発したときのメンバーたちの声が応援となり、チーム全体の結束力を強めます。その声がサテライトシステムやサブシステムの開発を続けていたときに、協力し合い、意見交換し、共に成長する機会を創出することに繋がります。その結果、業務プロセスの可視化、開発要件の明確化、そしてフィードバックを通して、素早いコミュニケーションがとれる環境を構築し、開発スピードのアップに繋がりました。
これは内製化によってチームが直接問題を解決していくことや開発プロセスに取り組む機会を持つようになり、その結果としてチーム全体の結束力が強まり、各人のスキルと知識が共有されることになりました。それはまさに、チームとして一体となり、共に成長する新たなステージに踏み出す瞬間でした。
まとめ
今回は失敗と成功の体験をお伝えいたしました。それは大きなプロジェクトの失敗から学んだ教訓、小さな成功(ミニプロジェクト)を重ねて大きなプロジェクトへとつなげるための戦略、そして内製化がチームビルディングに及ぼした影響です。
失敗は常に学ぶ機会です。そして、その学びを次の行動に活かすことで、小さな成功を手にすることができます。その小さな成功を積み重なることが、大きなプロジェクトの実現につながります。それが私たちが経験した一つのパターンでした。
また、内製化は私たちのチームが直接問題解決に取り組む機会を与え、開発プロセスを深く理解することを可能にしました。これにより、チーム全体の結束力が強まり、一体感が生まれ、全員が共に成長する環境を築くことができました。
私たちがこの経験から学んだことは、失敗を恐れずに挑戦し続けること。そして、チームとともに問題解決を進めていくことの大切さです。これらは、いかなるプロジェクトやチームでも通じる普遍的な真理だと思います。
さいごに
私たちの生活や仕事は常に変化と挑戦に満ちています。新しい技術や思想が日々生まれ、それらに対応しながら進化し続けることが求められます。しかし、その過程で私たちが直面する問題や困難は決して容易なものではありません。
今回の記事がみなさんが抱える課題や挑戦に対する一つの参考になれば幸いです。それが小さな成功を手に入れる第一歩になり、大きな成功へとつながることを願っています。
失敗から学び、小さな成功を重ね、チームとともに成長する。
これが私たちの経験から得た最も重要なメッセージです。このメッセージがみなさんに役立つことを心から願っています。
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