Blog
製造業の業務フローを箱と矢印で書き出す10の手順
製造業の業務フローを専門的な記号を使わず箱と矢印で書き出す方法を解説します。対象範囲の決め方と転記・待ち時間・属人化を見つけるポイントを10の手順で紹介します。

こんにちは。リナークのニシザワです。
例えば、ある製造会社で紙やExcelを使った管理を見直すことになったとします。
経営者から担当者へ伝えられたのは、次の依頼です。
「システムを検討する前に、まず業務フローを作ってほしい」
担当者は、受注、材料手配、製造、在庫、出荷、請求までの業務を一枚の図にまとめようとしました。
ところが、関係する部門も帳票も多く、書けば書くほど矢印が増えていきます。現場へ確認すると、さらに別の話が出てきます。
「実際は、製品によって手順が違います」
「急ぎの場合は、先に製造担当者へ電話しています」
「正式な管理表とは別に、自分たちで作ったExcelも使っています」
「在庫数が心配なときは、現場へ見に行っています」
こうして図は複雑になり、業務フローの作成自体が止まってしまいました。
これは、業務フローを書こうとしたときによくあるケースです。
業務フロー作成が難しいのは、担当者に知識がないからではありません。最初から会社全体を一枚の正しい図にしようとすることが大きな原因です。
この記事では、専門的な記号を使わず、製造業の業務フローを箱と矢印で書き出す方法を紹介します。
業務フローは、「きれいな図を作るためのものではない」
業務フローとは、仕事の順番だけを示す図ではありません。
大切なのは、それぞれの仕事について、次のことを関係者が確認できる状態にすることです。
- 誰が行っているか
- いつ行っているか
- 何を受け取っているか
- 何を確認しているか
- 何を入力しているか
- 何を判断しているか
- 誰へ何を渡しているか
- どこへ結果を記録しているか
- 例外が起きたときにどうしているか
図の見た目を整えることが目的ではありません。
普段は一人ひとりの頭の中にある仕事を関係者が同じ場所で確認できるようにする。それが、最初に業務フローを書く目的です。
なぜシステムを探す前に業務を書き出す必要があるのかは、「紙とExcelの管理から抜け出す!最初の一歩は『業務を書き出す』こと。」でも紹介しています。
今回は、そこから一歩進めて、実際の書き方を考えていきます。
最初から会社全体を書かない
業務フロー作成が進まない大きな理由は、対象とする範囲が広すぎることです。
受注から請求までを書こうとすると、営業、生産管理、購買、製造、品質管理、出荷、経理まで関係します。製品や取引先による違いもあり、一度に整理することは簡単ではありません。
最初は、一つの仕事に範囲を絞ります。
例えば、次のような単位です。
- 一つの受注が出荷されるまで
- 一つの製品が製造されるまで
- 一つの材料を発注して入庫するまで
- 作業実績が日報から原価集計へ反映されるまで
- 不良が発生してから対応が完了するまで
さらに、開始点と終了点を決めます。
今回「一つの受注が出荷されるまで」を整理するなら、次のように設定できます。
- 開始:営業担当者が注文書を受け取る
- 終了:製品を出荷し、出荷実績を記録する
範囲の外にある仕事が話題に出たら、無理に図へ入れる必要はありません。別の付箋やメモへ残し、後で整理する対象にします。
まず一つの流れを最後まで書き切ることが大切です。
業務を知る2〜4人で始める
業務フローは、管理者やシステム担当者が一人で作るものではありません。
管理者は全体の流れを把握していても、現場で行われている細かな確認や例外対応までは分からない場合があります。一方、現場の担当者は自分の仕事を詳しく知っていても、前後の部門で情報がどう使われているかまでは見えていないことがあります。
だからこそ、立場の異なる人が一緒に確認することに意味があります。
ただし、最初から営業、製造、購買、品質管理、経理などの全員を、長時間集める必要はありません。
対象の業務をよく知る2〜4人程度で始めます。
「受注から出荷まで」であれば、営業、生産管理、製造、出荷から一人ずつ参加してもらう方法があります。全員を集めることが難しければ、生産管理と製造担当者で最初の流れを書き、不明点だけ営業や出荷担当者へ確認してもよいと思います。
大切なのは、最初から全員の予定を合わせることではなく、一人の理解だけで完成させないことです。
紙、Excel、メール、口頭連絡を並べる
業務フローを書き始める前に、対象業務で使っているものを集めます。
- 注文書や作業指示書
- 紙の日報や検査表
- Excelの受注表や進捗表
- ホワイトボード
- メール
- LINEや社内チャット
- 既存の業務システム
- 担当者が使っている個人のメモ
- 電話や口頭で確認している内容
可能であれば、実物を机の上に並べます。データの場合は、印刷物や画面の一覧でも構いません。
ここで行いたいのは、紙やExcelを廃止することではありません。
それぞれの道具が、どの仕事を支えているのかを確認することです。
現場で使われているExcelには、現在の仕組みだけでは得られない情報を補う役割があるかもしれません。「なぜExcelは増え続けるのか。現場が必要な情報を補ってきた結果です。」では、担当者ごとにExcelが増えていく背景を詳しく紹介しています。
そのため、先に捨てるものを決めるのではなく、まず役割を確認します。
箱と矢印だけで現在の流れを書く
準備ができたら、付箋、ホワイトボード、大きめの紙などを使って業務を書き出します。
最初は、専門的なフローチャートの記号を覚える必要はありません。「箱」と「矢印」だけで十分です。
一つの箱には、一つの作業を書きます。
例えば、次のように複数の作業を一つの箱へまとめると、途中で行われている確認や判断が見えません。
受注内容を確認して、生産計画を立て、材料を手配する
これを、次のように分けます。
- 注文書を受け取る
- 受注内容を確認する
- 納期を確認する
- 製品在庫を確認する
- 生産予定を決める
- 不足する材料を確認する
- 材料を手配する
箱を並べたら、情報が渡る順番に矢印でつなぎます。
ただし、最初から細かく分けすぎるとまた完成しなくなります。まずは5〜15個程度の箱で、開始点から終了点までの大まかな流れを確認してください。
詳細が必要な場所は、全体の流れが見えてから追加します。
箱で全体の流れを書いた後、確認が必要な作業だけ、次の表を使って詳しく整理します。最初からすべての欄を埋める必要はありません。
| 作業 | 担当者 | いつ | 入ってくる情報 | 確認・判断すること | 使用する道具・記録先 | 次に渡す情報 | 困りごと・例外 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 注文書を受け取る | 営業 | 注文受付時 | 顧客の注文書 | 品番・数量・希望納期に不足がないか | メール・紙・受注表 | 確認済みの受注情報 | 注文書の書式が顧客ごとに違う |
正式な手順ではなく、実際の仕事を書く
業務フローに書くのは、規程上の手順や将来実現したい理想の業務ではありません。
現在、実際に行われている仕事です。
例えば、次のような対応も書き出します。
- 正式にはシステムを見ることになっているが、実際はExcelを見ている
- 在庫数が不安なため、現場へ電話して確認している
- 急ぎの注文だけ、製造担当者へ口頭で伝えている
- 月末に担当者が手作業で数字を修正している
- ベテランが経験をもとに工程の順番を変えている
- 不良が発生したときだけ個人のメモを使っている
これらを最初から「悪い仕事」と決めつけないことも重要です。
電話で確認しているのは、現在の在庫情報だけでは判断できないからかもしれません。Excelを別に作っているのは、既存システムに必要な項目がないからかもしれません。
現場は、仕事を止めないために不足を補っています。
その対応を消す前に、「なぜ必要になったのか」を確認します。そこに改善すべき本当の問題が隠れています。
作業だけでなく、判断を書き出す
業務フローでは、作業と同じくらい「判断」が重要です。
製造業の仕事には、さまざまな判断があります。
- この納期で受注できるか
- 在庫品を出荷するか、新しく製造するか
- どの設備へ割り当てるか
- どの案件を優先するか
- 材料の追加手配が必要か
- 不良品を再加工するか、廃棄するか
例えば、業務フローに「納期を確認する」という箱があったとします。
その隣に、次の情報を書き足します。
- 誰が判断しているか
- 何を見て判断しているか
- どのような基準を使っているか
- 通常と違う場合は誰へ相談するか
- 判断した理由が記録されているか
「ベテランのAさんが、設備の混み具合を見て判断する」という状態まで分かれば、重要な知識がどこにあるのか見えてきます。
すぐに判断を自動化する必要はありません。まずは、どのような情報と経験を使っているのかを言葉にすることが第一歩です。
判断基準や判断理由が会社に残るようになれば、ほかの人が仕事を理解しやすくなります。将来、蓄積した情報をAIなどで活用するときにもこのような整理が土台になります。
転記、待ち時間、属人化へ印を付ける
業務フローを一度書き終えたら、問題が起きている場所へ印を付けます。
例えば、次のように印の意味を決めておくと、関係者で確認しやすくなります。
- 赤い印:同じ情報をもう一度入力している
- 青い印:情報が届くまで待っている
- 黄色い印:特定の人しか判断できない
- 緑の印:結果や判断理由が残っていない
確認したいのは、次のような場所です。
- 紙からExcelへ転記している
- Excelから別のExcelへコピーしている
- 情報が届くまで次の作業が止まっている
- 電話や口頭で確認しなければ進まない
- 特定の担当者にしか判断できない
- 数字を手作業で集計している
- 部門ごとに品名や数量の書き方が違う
- 例外対応が何度も発生している
- 作業結果は残るが、判断理由は残っていない
- 問題が起きても後から原因を確認できない
印が付いた場所は、誰かが間違っている場所ではありません。
現在の仕組みだけでは情報や判断が足りず、人が補っている場所です。言い換えれば、改善による効果が期待できる場所でもあります。
最初に改善する場所を一つ選ぶ
業務フローを書き出すと、問題がいくつも見つかることがあります。
ここですべてを一度に解決しようとすると、対象範囲が再び大きくなります。まずは一つ、改善する場所を選びます。
候補を比べるときは、次の観点を使います。
- 毎日または毎週発生しているか
- 関係する人が多いか
- 同じ情報を何度も転記しているか
- 間違いが起きやすいか
- 情報が遅れると次の仕事が止まるか
- 経営判断に必要な数字へつながっているか
- 小さく始めても効果を確認しやすいか
例えば、「受注から出荷まで」の全体を一度にシステム化する必要はありません。
- 受注情報を製造へ渡す部分
- 紙の日報から作業実績を入力する部分
- 出荷実績を在庫へ反映する部分
このように範囲を絞れば、現場への負担を抑えながら、変更前と変更後を比較できます。
小さく仕組みにして、実際に使う。問題があれば流れを見直す。その結果を確認してから、次の範囲へ進みます。
製造業の業務フローを書き出す10の手順
ここまでの内容を、実際に進める順番で整理します。
1.対象とする一つの業務を決める
一つの受注、一つの製品、一つの材料など、具体的な対象を選びます。
2.開始点と終了点を決める
「注文書を受け取る」から「出荷実績を記録する」までのように、今回書く範囲を明確にします。
3.関係者を2〜4人集める
対象業務をよく知る人を、異なる役割から集めます。不明点は後から担当者へ確認します。
4.使用しているものを並べる
紙、Excel、メール、システム、ホワイトボード、個人のメモ、口頭連絡まで確認します。
5.現在の作業を箱で書く
一つの箱に一つの作業を書き、最初は5〜15個程度で全体を捉えます。
6.情報の受け渡しを矢印でつなぐ
誰から誰へ、何が渡っているのかを確認します。帳票だけでなく、電話や口頭連絡も含めます。
7.担当者と判断を書き足す
各作業を誰が行い、何を見て、何を判断しているのかを書きます。
8.転記、待ち時間、属人化へ印を付ける
同じ情報の再入力、情報待ち、ベテランだけの判断、記録されない例外対応を探します。
9.最初に改善する場所を一つ選ぶ
発生頻度、影響、間違いやすさ、始めやすさを比べて決めます。
10.小さく仕組みにして、結果を確認する
実際に運用し、仕事がどう変わったかを確認します。必要に応じて業務フローも修正します。
業務フロー作成で避けたいこと
業務フロー作成が途中で止まりやすいのは、担当者の能力が原因ではありません。最初の目的や範囲が大きすぎることが原因になっている場合があります。
特に次の進め方には注意が必要です。
- 最初から会社全体を書こうとする
- きれいな図を作ることが目的になる
- 管理者やシステム担当者だけで作る
- 理想の業務だけを書く
- 現場の例外対応を省く
- システム画面の操作順だけを書く
- すべての問題を一度に解決しようとする
- 現在使っている紙やExcelを先に捨てる
- 人の役割や判断を書かない
業務フローは、最初から正解を作るものではありません。
分からない場所や担当者によって説明が異なる場所が見つかったなら、それも大切な発見です。
業務フローは完成してからが始まり
製造業の仕事は、顧客、製品、設備、人員、納期によって変化します。
そのため、一度作った業務フローを固定し、必ずそのとおりに進めることだけが目的ではありません。
- 実際に運用する
- 問題が起きた場所を確認する
- 仕事の流れを修正する
- 必要な仕組みを変更する
- 結果を振り返る
この循環を続けるために、業務フローを使います。
リナークも完成した業務フロー図を一方的に作ってお渡しするのではありません。
現在使っている紙、Excel、帳票、システムを見ながら、誰が仕事をしているのか、どこから情報が来るのか、何を見て判断しているのかを、お客様と一緒に確認します。
そのうえで、情報が止まっている場所や同じ内容を何度も入力している場所を見つけます。最初から大きな仕組みへ置き換えず、一つの業務から小さく作り、実際に使いながら育てていきます。
よくある質問
業務フローはどこまで細かく書けばよいですか?
最初は、開始点から終了点までを5〜15個程度の箱で書きます。全体の流れが見えてから転記や判断がある場所だけを詳しくしてください。最初からすべての操作を書くと完成しにくくなります。
業務フロー図の専用ソフトは必要ですか?
最初は必要ありません。付箋、ホワイトボード、紙など、関係者が一緒に見ながら動かせるものが適しています。流れが固まってから必要に応じてデジタル化します。
現在の業務と理想の業務は、どちらを書けばよいですか?
最初に書くのは、現在実際に行われている業務です。理想の業務を先に書くと、転記、口頭確認、個人のメモ、例外対応などが見えなくなります。現状を書いた後に、改善後の流れを別に考えます。
例外対応はすべて書く必要がありますか?
最初からすべてを書く必要はありません。まず通常の流れを書き、その後、頻繁に発生する例外や発生すると影響が大きい例外を追加します。
誰を業務フロー作成に参加させればよいですか?
対象業務をよく知る2〜4人程度から始めます。管理者だけではなく、実際に入力、確認、判断、受け渡しを行っている担当者を含めることが大切です。
まとめ
製造業の業務フローを書き出すとき、最初から会社全体を一枚の図にする必要はありません。
一つの受注や一つの製品に範囲を絞り、箱と矢印で現在の仕事を書いてみてください。
書き出すのは、正式な手順だけではありません。
Excelへの転記、電話での確認、個人のメモ、急ぎの場合の口頭連絡、ベテランによる判断も含めます。そこまで書くことで、普段は見えない情報の分断や属人化が見えるようになります。
業務フローは、システム開発会社へ渡すためだけの資料ではありません。
自分たちの仕事を言葉にし、問題を見つけ、改善した結果を振り返るための共通言語です。
まずは自社で試してみてください
実際の受注を一件選び、注文書を受け取ってから出荷実績を記録するまでを箱と矢印で書いてみてください。
その中で、次の場所を一つ探します。
- 同じ情報を二度入力している
- 情報が届くまで仕事が止まっている
- 電話や口頭で確認している
- 特定の担当者にしか判断できない
- 結果や判断理由が残っていない
すべての問題を一度に解決する必要はありません。まずは現場の負担が大きく、小さく改善を始められる場所を一つ選んでみてください。
次の記事では、リナークがなぜシステムそのものではなく、「会社が学び続ける仕組み」をつくろうとしているのかを紹介します。
現在使っている紙やExcel、帳票を見ながら、受注から製造、出荷までの流れを一緒に整理することもできます。システムを作ることが決まっていない段階でも、業務フローの整理から相談できます。



